専務と心中!
「何で私が待たなあかんの!……離婚成立してから来いっちゅーねん。……てか!別に、専務のこと、好きでもなんでもないし。」

煽られて、私は半分キレていた。

「……だよな。……まあ、とりあえず……寄ってく?」
薫が指差した先には、何軒ものホテルが林立していた。

「うん!」
……結局、こうなるんだよな。


「……帰りたくないかも。」
師匠に不本意な番手捲りで捨てられた薫の熱い憤懣は、いつもより激しい衝撃を私に与えた。

……いや、いいんだけどね……疲れるのよ、受け止めるほうも。
とりあえず、腰が……力、入らない。

「このままココに泊まって、早朝、一旦帰宅するか?」
「うん。それでもいいかも……あ……電話……。」

薫の携帯が着信を知らせて光っていた。

「……げ。師匠。……もしかして、迎えに来いとか言われたりして……。」
嫌そうな顔をして見せてから、薫はガックリ肩を落として、渋々電話に出た。

「はい。………………。はい。」
薫は途方に暮れた顔で私を見た。

「泉さん?迎えに来いって?」
聞くまでもない気がしたけど、確認した。

「うん。ごめん。にお。……祇園経由して、送るよ。」
「え!いや!いい!タクシーで帰る。」

ギリギリ電車もあるかもしれない。
薫とした後、泉さんや薫の元カノと顔を合わせるのは、かなりばつが悪い。

私はそう言いはって、駅でおろしてもらった。
「じゃあね。専務の車、よろしくね。」
ひらひらと手を振って、薫にそう言った。

薫はうなずいてから、つけ加えた。
「俺、明日はぐっちー専務の奥さんに会えるかもな。……見てくるわ。偵察。」
「偵察って……。」
「まあ、変わってはるけど、悪いヒトじゃなさそうやし。……少なくとも、におの今の彼氏よりは、におのこと、大事に想ってはるから……。」

薫の携帯が震えた。
師匠の泉さんが催促してるようだ。

「あかん。行くわ。おやすみ。」
薫は、意味深な言葉の続きを言わないまま、行ってしまった。

……薫……気づいちゃったかな。
いつもほど、私が……夢中になれなかったこと。
そりゃ、わかるよね。
隠して、演技してても……。

ため息がこぼれた。

椎木尾さんも含めて歴代彼氏とのHでは多少の演技も当たり前だった。
でも、薫とはいつも奔放に楽しめたのに。

まるで呪縛のように、専務の言葉が脳裏から離れない。
運命だ、って……。
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