専務と心中!
「お説教されるような仲なの?親がお友達とか?」

ご機嫌を取るわけじゃないけど、専務のすぐ横に座り直して、2杯めのお茶を注いだ。

触れるか触れないかの位置に座ったまま返事を促すと、専務の瞳が耀き、頬が紅潮し、鼻の穴が少し広がった。

近づきすぎたかな…。

ひと膝だけ離れようとしたけど、時既に遅し。
専務は私の肩を抱き寄せると、ゆらゆら揺れながら上機嫌で話し出した。

「カリフォルニア領事だった親戚を頼って留学したんだけどね、すぐに異動にならはって、1人暮らしをすることになったんだ。それで俺のお目付け役をバロンに頼んだらしい。」

「ばろん?…それが佐藤会長?」

てっきりニックネームだと思って、そう確認した。
でも違うらしい。

「うん。佐藤男爵。お祖母さんのお父上は陸軍大臣だったそうだよ。」

……ひょえー。
男爵!?
大臣!?
ホンモノのバロンなのか!

「旧華族、ってことですか。じゃあ、今、天花寺家に婿養子に入ったって言っても、逆玉の輿、ってわけでもないんですね。……はは。」

なるほどなあ。
あの椎木尾(しぎお)さんが、気に入るわけだわ。
碧生くん、めちゃめちゃ「エエとこの子ぉ」じゃないか。
それでチャラい外見してても、下品じゃないのかなぁ。

続きをうながすと、専務は気恥ずかしそうに口を開いた。
「カリフォルニアは、移住した日本人も多くてね……今の日本よりずっと格差社会というか………まあ、イロイロめんどくさくてね。日本人コミュニティーから逃げ出して、ラスベガスで暮らしてたんだよ。」

「ラスベガス?……専務もカジノが好きなんですか。」

……も、って言っちゃった

専務はポンポンと私の肩を軽く叩いた。
「にほちゃんも?……じゃあ、今度一緒に行くか?……ラスベガスは楽しいぞ。」

「……競輪は買うけど、私、ギャンブルが好きなわけじゃないんで。」
そっけなくそう言ったけど、専務はニヤリと笑った。

「そうか?にほちゃん、筋がイイと思うよ。一か八かの大勝負じゃなくて、ちゃんと確率を考えて買ってたしな。」

えー、そうかな。
首を傾げた私の頭を、専務が撫でた。

「ギャンブルって一口に言っても、バカラや丁半ばくち、ちんちろりんみたいに、手っ取り早く運任せに金をやり取りするスリルが好きな奴もいりゃ、競輪やポーカーやポン引きみたいに推理要素の多いゲームが好きな奴もいるだろ。にほちゃんや俺は後者だな。」

……なるほど。
そうゆうものなんだ。
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