専務と心中!
「ルーレットは?どっち?」

何となく、椎木尾さんのことを思い浮かべながらそう聞いてみた。

専務は、微妙な表情で苦笑した。

「難しいね。ひとによる。出目をメモして統計を取って慎重にゲームに参加する奴もいれば、雰囲気に流されて漫然と賭け続ける奴もいるし。ルーレットは、性格が出るかもね。」

そう言ってから、専務は言いにくそうに続けた。

「マダムとはカジノで出逢ったんだが……ディーラーと組んで大金を得たイカサマがバレて、彼女の家族が逮捕されるところにたまたま居合わせたのがきっかけだった。」

「それはまた……すごいご縁ですね……」

言葉が出ない。
碧生(あおい)くん、専務の奥様のご家族のこと、あれでもオブラートに包んで話してたんだなあ。

専務は私に苦笑を見せてから、うつむいた。

「マダムは当時まだ14歳。保護者を無くした彼女をほっとけなくてね、施設に彼女を訪ねてるうちに愛しく感じるようになった。あとは、お決まりのコースだな。同棲して、周囲にバレて、反対されて……」

「そうですか?でも、反対されても別れなかったんでしょ?すごい、がんばったじゃないですか。」
私は専務の顔をのぞきこんでそう言った。

専務は、私から手を離して、すっくと立ち上がった。

「……続きは、あとで。食事が届いたようだ。」

言い終わらないうちに、お部屋のチャイムが鳴った。

「はいはい。」

いつものニコニコ顔で専務は部屋を開けて、ホテルの給仕さんを迎えた。

テーブルの上には湯気の上った蒸篭(せいろ)がいくつも積み上がり、まるで摩天楼。

「どうもありがとう。」

専務は彼にチップとして千円札を渡して、ひらひらと手を振ってドアを閉めた。

「さて。熱いうちに食べようか。」

何の苦労もしたことなさそうな、専務の白い指が蒸篭を開け、象牙色の長いお箸を持つ……ただそれだけの動作に私はちょっと見とれた。
専務と目が合うと、恥ずかしくなって、目をそらす。
……やばいやばい。

あつあつの点心はどれも美味しかった。
ぷりぷりの海老や、野菜の甘さを活かした優しい味が楽しくて、どんどんお箸が進んでしまった。

細く刻んだ針生姜と一緒に食べる小篭包(しょうろんぽう)はまだかなり熱くて、少し舌を火傷した。


一通り食べ終えた後、専務はソファに仰向けに寝転んだ……私を腕に巻き込んで。
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