専務と心中!
「ちょっ……」

文句を言おうとしたけれど、私を見つめる専務の瞳がやたらうるうるしていて……

てか、顔、近っ!
こんなくそ狭いソファで大人2人が寝転ぶとか……もう……

「にほちゃん、さっき、口の中、火傷しただろ?」

専務の指摘に、ドキッとした。
あの時、咄嗟に小さく肩をすくめて目を閉じたのを、専務は見逃してなかったらしい。

「ちょっとだけですよ。」
気恥ずかしくて目をそらしてそう言った。

「どれ?見せて。舌?べー、して。」
「やだ。子供じゃないのに。……それに舌のちょっと奥の脇だから……見えま……ん……」

最後まで言わせてもらえなかった。

専務の唇が、舌が、私の唇を捉えて、ぬるりと侵入して来た。
頭の中が真っ白になる。

ああ。
キスされちゃった。

……気持ちいい。

やばい。

口中を舌でくすぐられ、全身の力が抜けてしまった。

抵抗できない……。


こぼれて顎を伝う唾液をぺろりと舐めて、専務はようやく私を解放した。

「かわいい。にほちゃん。かわいいよ。抱きしめさせてくれ。」

ぐったりしてる私をまるで人形のように横抱きしてから、専務は小さく
「よしっ!」
と気合いを入れた。


…やる気?

専務は私を抱き上げて立ち上がると、まっすぐベッドへと向かった。

やっぱりその気になっちゃったみたい。

このまま抱かれちゃうのかなあ……。
嫌じゃないんだけど……いや、嫌だ。
不倫は、勘弁!


「嘘つき。離婚するまで、しないって言ったのに。」

そう言ってみたけど、専務はちゅっと軽いキスをしてからウィンクした。

「嘘じゃないよ。しないしない。ただ、にほちゃんを抱きしめてたいだけ。ソファじゃ狭いだろ。」

……絶対、嘘だ~。

鼻の穴をふんがふんが拡げて、目が欲情してるよ、専務。
そんな言葉に騙されるほど、私、初心(うぶ)じゃない。

「勝手にあんなキスして……性病とか肝炎とか虫歯とかうつされたくないんですけど。専務も病気も、奥様と共有とか絶対勘弁!」

睨みつけてそう言ったら、専務はニッコリと笑った。

「それなら大丈夫。マダムとはもう何年も何もないから。キスもなけりゃハグもないよ。……だから久しぶりすぎて……今、すごく興奮してる。」

最後は気恥ずかしそうな顔になった専務に、キュンとした。

やっぱりこのヒトって、かわいいんだよなぁ。
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