専務と心中!
「……てか、しないわよ?ホントに、嫌よ?」

あくまでそう言い張ったけど、あれよあれよという間に、ベッドの中へ連れ込まれてしまった。

「かわいいなあ。もう。食べてしまいたいよ。にほちゃん。愛してるよ。」

何度も何度も繰り返される睦言とキス。
溶かされていく意地と理性。

ひどい。
こんなの、ずるい。
涙が、こみ上げてきた。

一度泣き出すと、関を切ったようにどっと涙が流れ落ちた。

「え……にほちゃん?……え?……あれ?」
さっきまで調子のよかった専務が怯んだ。

私が、専務のことを嫌ってないし拒絶もしないから、流されてくれると思ってたんだろうな。
まさか泣くほど嫌がってるとは思えなかったらしく、専務は途方に暮れたようだ。

……こういうところもかわいくて…………このヒトってやっぱり優しいぼんぼんなんだろうな、って思う。
言葉どおり、本当に、無理強いはできないんだろうな、って。


私はとめどなく流れる涙をそのままに専務を見つめた。

「専務にどうしようもなく惹かれてます。」
口から勝手にそんな言葉が飛び出したことに、自分でも驚いた。

これが、本心なのだろうか。
確かにかわいいと思うし、ほだされてるのは感じるけど……それって、好きってことでいいのかな。

専務が、ぱっと顔を輝かせたのを見て、私は慌てた。

いや、待って!
ダメだってば!

「でも!」

総動員したなけなしの理性を武器に、涙を盾に、私は拒絶した。

「ダメです。こんな状況で専務に抱かれたら、私、たぶん、専務に迷惑をかけてしまうから!」
「え?……迷惑?」

たじろいだ専務を見て、妙に心が落ち着いた。
涙が止まった。

よし。

私は腹を括った。

「自分でも驚いてます。こんなの、はじめて。……遊びのセックスって割り切れへんみたい。ましてや、不倫は絶対無理。」

言ってて、不思議な気がした。

今まで、さんざんその時々の恋人と同時進行で薫と楽しんできたのに。

薫が言ってたように、私も、最愛のヒト1人だけが欲しくなったのかもしれない。

このヒトは……ネクタイを緩めることもなく、スーツのままベッドで困惑している専務は、本当に私1人のモノになるのだろうか。
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