専務と心中!
見るまでもない。
専務だ。

碧生くんが訝しげに振り返り、専務を見て、両手を大きく広げた。

「統(すばる)っ!?久しぶり!覚えてる?俺、わかる?」

すると、専務も満面の笑み……からの、ハグ!

おじさんと青年のハグって、なんか、リアルな迫力が……やばいかも。
私だけじゃなく、通りかかる社員がみんな白い目で見てる気がする。

2人は周囲を気にすることなく、英語まじりの会話で盛り上がった。
けど、突然、言葉が途切れた。
英語が多くて、聞き取りを断念してた私を、2人がじっと見ていた。

なに?

「じゃあ、離婚したんですか。」
碧生くんは小さな声で言ったのに、やけに玄関ホールに響き渡った。


不穏な言葉に、周囲の社員が足を止めて注視してる。
でも専務は、気にすることなく、私に大きな声で言った。

「にほちゃん。待たせたね。終わったよ。正式に離婚した。これで、君を誘ってもいいだろ?」

誇らしげにそう言った専務に、周囲が凍り付いた。

私は目を見開いて専務をただただ見ることしかできなかった。
言葉が、出ない。

……ないわ。
専務。
これは、ない。

タイミング悪すぎる。
今朝、椎木尾さんがココで私との別れを大仰に演じたばかりなのに。
昼にはもう、専務からの求愛って!

ばつが悪過ぎて、逃げ出したい。

唇を噛んで、両手の拳を握り締め、黙って去ろうとした。
けど、専務は私の腕を捉えて、立ち去らせてくれなかった。

「待って。少しでも早く君に伝えたくて待ってたんだ。」

……そんなこと言われたって、何も言えるわけない。
こんなところで、人目もあるのに。

黙って専務を睨む。
と、碧生くんが間に入ってくれた。

「はいはいはい。統(すばる)、焦りすぎ。逆効果やって。……はい、手を放す。はい、布居さんも睨まない。スマイルスマイル。……で?統、水島のラインの交わしの交わし?1点だけ?1万円?三連単?」
「あ……ああ。よろしく。」
「……碧生くん。一応会社だから。専務とお呼びして。」

めちゃめちゃ気恥ずかしくて、私は必死で落ち着こうとしていた。

「そうだった!失礼しました。専務。……はい。購入OK。へえ。8万ぐらいつくよ、これ。」
「ほう。そんなに。じゃあ的中したら、ラスベガスで豪遊だな。……にほちゃんも連れてくから。」

専務はこともなげにそう言って、ニッコリほほえんだ。
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