専務と心中!
「……カジノ?懲りないヒトですね。」
呆れたような碧生くんのつぶやきに、専務の笑顔が引きつる。

「しーっ。碧生くん。古傷をほじくり返すなよ。」
そう言って、専務はキョロキョロし、やっと社員の冷たい視線に気づいたらしい。

「あー……。」
困ったように周囲を見渡してから、専務は咳払いして、口を開いた。

「まあ、そういうことだ。諸君。よろしく。私は独身に戻ったから、仲人とか夫婦同伴のご招待は勘弁してくれ。……再婚するまでな。」

開き直りやがった。

イラッとした。

「碧生くん。お昼休み終わるわ。行こう。」
専務から視線をそらしてそう言うと、私は足早に玄関ホールを突き抜けた。

「ほんとだ!じゃ。統(すばる)!……専務!失礼します。」
「ああ。頼んだよ。」

そんなやりとりが遠のいてって、それから碧生くんがパタパタと私を追う足音が近づいてきた。

「布居さん、大丈夫ですか?」
気遣わしげな碧生くんの声。


「朝も同じように聞かれた気がする。」
もう苦笑しか出ない。

碧生くんは、大仰に肩をすくめて顔をしかめて見せた。

「ほんとだ。役者とシチュエーションは違うけど。うーん。まずいですね。布居さんが統と不倫して、ごいっちゃんを振って、統を離婚させた……って誤解されそうな流れでしょうね、これ。魔性の女?」

ぎくりとした。
碧生くんの言うとおり、最悪な展開になりそうだ。

そんなんじゃないのに。
てか、そうならないために、夕べだって、専務に流されないよう逃げ出したのに。

不倫してないのにー!!!

「不倫だけはしなかったのに……」
そうぼやいたら、碧生くんが苦笑いしていた。



社史編纂室に戻ると、南部室長が明らかに変だった。
早速、誰かから何かを聞いたのだろう。

……まあ、仲良しの人事課主任あたりがご注進したんだろうな。
うんざりする。

とりあえず、挨拶して隣室での撮影に戻ろうとした。
でも、室長に止められた。

「あー。布居さん。ちょっと。……天花寺(てんげいじ)くんは、先に撮影を始めててくれ。布居さん残って。」

……はあ。
ため息で返事してしまった。


「お騒がせして、申し訳ありません。」
とりあえず、そう頭を下げた。

でも室長は、首を傾げた。

「……何か、あったか?」

あれ?

椎木尾さんや専務の話じゃなかったのだろうか。
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