専務と心中!
碧生くんはお腹を抱えて笑った。

「すげぇ!超ウケる!統(すばる)、公私混同すぎるやろ!それ!」

だよねえ?

碧生くんの反応に力を得て、私は勢いづいた。

「うん。私もそう思う。やっぱり文句言わないと。このままじゃあかんわ。」

拳を握り締めて憤慨してると、隣室で電話が鳴った。

室長は、出てったから……大変大変。
慌てて隣に戻って、電話をとった。

外線だ。
よそ行きの声で、会社名と部署を続けて名乗った。

受話器の向こうから聞こえてきたのは、ぼそぼそとソフトな声。

『……どぅも。美術館の峠(とうげ)です。頼まれてた写真の複写ができました。現物は後日お引き渡しいたしますが、先にデータだけ送ったほうがいいですか?データも膨大なので、社内LANに常駐はまずいと思うのですが。』

へ?
峠さん?

なになに?
なんの話?

「こんにちは。……えーと、写真って?……社史に掲載される図版ですか?」

何のことかよくわからず、私はそう確認した。

『いえ。美術館で保管してる戦前の写真の複製です。これからできる資料室に置かれるとのことでしたので。……もしかして、まだ、聞いてませんか?』

「はあ。資料室……。社史編纂終了後に作るとか何とか噂を聞いた気もしますが、会社からはまだ何も。……美術館があるのに、資料室をわざわざ作るんですかねえ?」

しばしの無言のあと、峠さんが言いにくそうに言った。

『力及ばす、すみません。資料を預かるだけならこちらの美術館でいくらでもお預かりするのですが、』
「わ!すみません!そんなつもりで言ったんじゃないんです。」

あわててそう言って、峠さんの謝罪を遮った。
ごめんなさいごめんなさい。
峠さんの有能さは、よくよくわかってるし。

「美術館まで距離もありますし、わざわざ資料室を作って活用するならら、本社内にってことなんでしょうね。……写真って、どれぐらいあるんですか?」

初耳ながら、整理も管理も私がしなきゃいけないのだろう。

観念してそう尋ねたら、峠さんはさらりと言った。

『江戸期の写真が200点、明治期の写真は2000点、大正期の写真は800点、昭和は20年間で2500点というところです。』

「そんなに!?全部複写したんですか!?」

びっくりした。

さすがに驚いた。

ものすごい点数じゃないか!
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