専務と心中!
どうやら、私、総合職じゃなくて、峠さんと同じ「高度な知識を持つ専門職」って階級に上げてもらってたみたい。

ちなみに、碧生くんと遥香さんも、他の部署の嘱託やアルバイトより、かなり高給だった。
こちらもちゃんと、専門職待遇みたい。

……がんばらなきゃ。
評価を受ける前に優遇される意味を、勘違いしていたくない。

ちゃんと抜擢に応えなきゃ。

そう思って、決意も新たに仕事にも勉強にも取り組んでるつもりだった。
だったけど……さっきみたいに峠さんに誉めてもらえると……なんかもう、こそばゆいというか。

もっももっとがんばらなきゃ、って、気合いが入る。
文献だけじゃなく、資料の全てを掌握できるように。



その日の終業間近に、再び専務が社史編纂室に顔を出した。

「今晩、上垣くんの歓迎会をしないか?」

めちゃめちゃ急な誘いに、遥香さんも碧生くんも、多少困惑していた。

……そりゃそうだろう。

2人は学生だけど既婚者だ。
配偶者や家族との予定もあるだろう。

まあ、忙しい専務が我々のために、たぶん無理やり時間を作ってくれたんだろうけど……さすがに急過ぎるよね。

「専務。今日、言って今日は無理ですよ。……2人とも家庭があらはるんですから。」

苦笑してそう言うと、碧生くんがニヤリと笑った。

「俺、今夜、家族で花見なんですよ。今、桜、どこも綺麗ですよ。……身軽な独身の2人で行ってきたらどうですか?夜桜見物。」

遥香さんも明るい笑顔で、手を打った。

「是非そうしてください!私のための会は、主人の宿直の日にお願いします。」

……遥香さん……ほんっまに、らぶらぶなんだなあ。

苦笑を返してから、ちらっと専務を見た。

専務もまた、ちらっと私を見て、それからうつむいて、頬を染めた。

……乙女かよっ。

今さらそんな風に照れられても……。

まあでも、2人で行動するのって、あの夜以来なのよね。
専務、ほんっとに忙しそうだったから。

おかげで私はたっぷりと古文書の勉強できたんだけどさ。
椎木尾(しぎお)さんと別れ、薫とも途切れ、合コンや紹介、お誘いも断り……ひたすら自宅で勉強する毎夜。

中学生の時以来の真面目な生活ぶりに、両親が逆に心配し出したほどだ。

まあ、椎木尾さんとの結婚は釣り合わないと心配してたらしいので、そこはホッとしたらしいけど。
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