専務と心中!
「……じゃ、そうゆうことで。終業時間なんで、失礼しまーす。」

碧生くんが、さっさと荷物をまとめて席を立った。

「そうね。私も帰る。……布居さん、着替え、行きましょ。ほら、早く。専務、待たせちゃダメですよ。」
ぐいぐいと、遥香さんが私の手を引く。

当事者の意見を無視して、話が進められてく……。

閉まってくドアの隙間からチラッと専務が見えた。
満面の笑みで小さくガッツポーズをしていた。

……喜んでる。
成り行きを、めちゃ、喜んでるし。

まぁ……いいか。


ロッカーを開けて着替えようとしてると、遥香さんが私を手招きした。

「布居さん、布居さん。お化粧、直しましょう。それから、服も。……私、置き服持って来たんで、これ、着はりません?似合わはると思うんですけど。」

置き服!?

びっくりした。

「遥香さん、まだバイト初日やのに?置き服って!」

まるで合コン三昧のOLみたいじゃないか。

「え。だって、いつ何があるかわからないし。ワンピースとジャケットぐらいは常備しとくものじゃないんですか?」

遥香さんはそう言って、オフホワイトのシフォンワンピをしゃらしゃらと広げて見せてくれた。

「せっかくの夜桜デート、普段着なんてもったいないですよ。……ほら。これ着て、焼き肉とか行っちゃってください。」

焼き肉!?

「なんで、焼き肉?……しかも、これ、白いのに……汚したら大変。借りられませんわ。」
慌ててそう言って、手と首をぷるぷる振って断った。

でも遥香さんは、ニッコリと笑って見せた。
「だからいいんですよ。意外性?……これ、めちゃめちゃ安くで買ったんです。でも、安物に見えないでしょ?」

何がどういいというのか、よくわからない。
わからないけど、遥香さんに乗せられてしまった。

遥香さんは、私に華やかな上品系化粧を施してくれた。

「……上手いですね。メーク。」
鏡の中の私は、いつもより数段、愛らしく化けていた。

「そうですかぁ?まあ、中学の頃から化粧してましたからねー。」
遥香さんは楽しそうにそう言った。

髪も少しブローして、遥香さんの白いシフォンのワンピースに自前のピンクのツイードジャケットを羽織って、いざ、出陣だ。

「かわいいかわいい。専務ぐらいの年齢であの純情っぷりなら、こーゆー清楚っぽいのがツボやと思います。健闘を祈ります!」

遥香さんは、まるで自分のことのように真剣だった。

「……ありがとう……。」
と言うことに、いささかの抵抗感は覚えたけれど、私は従容と背中を押された。
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