専務と心中!
「そうか。じゃあ、ランプ肉、フィレステーキ、シャトーブリアン……ハラミもいけるか?」

本当に赤身ばかり挙げた専務に慌てて言った。

「そんなに!?ハラミとランプだけで充分です!専務は、カルビとかロースとか、遠慮せず召し上がってくださいね。」

でも専務は苦笑。
「おいおい。意地悪言うなよ。俺、もうそんな若くないから。……それに、あんまり肉を喰うと消化に血が要るから頭が回らなくなるだろ。」

「……頭って。今夜も早寝して、明け方前から勉強されるつもりですか?」

驚いてそう聞くと、専務の頬が染まった。
そして、言いにくそうに、それでもしっかりとした声で言った。

「いや。できたら今夜は、にほちゃんと過ごしたい。一緒に夜桜を見て、美味い酒でも飲んで。……できたら、朝まで……。」

朝まで、ね。
はは。

返事しづらいなあ、もう。

タイミングいいんだか悪いんだか、店員さんがお皿をいくつか持ってきてくれた。
注文したキムチの盛り合わせと、ナムル、それから……あれ?……レバ刺し?

「お店からのサービスです。焼いて召し上がられたということでお願いします。」
そう言って、唇に人差し指をあてがって、店員さんは笑顔を見せた。

「……うわぁ。ありがとうございます!いただきます。」

私は早速、ごま油をたっぷり絡ませてレバ刺しを食べた。

歯ごたえで新鮮さがわかる。
それに、あまーい。
美味しいわ、ここのレバ刺し。

「うまいか?」

専務にそう聞かれ、私は満面の笑みでうなずいた。

「専務もどうぞ。新鮮で甘いです。」

すると専務は真面目くさった顔でお箸をのばしてきた。

あれ?
もしかして、はじめてなのかな。

「食べたことないですか?それとも、嫌い?」
「……いや。昔、母がよく食べてた。貧血症で、レバ刺しを食べると楽になると言ってたから……。」

そう言って専務は一番小さなレバ刺しを一枚、目をつぶって口に入れた。

そんな無理して食べなくても、私が全部食べるのに。

専務は微妙な表情で咀嚼して、それからパチリと目を開けた。

「臭くない!」

そう言って、うれしそうにニコーッと笑った専務は、めちゃめちゃ好いたらしかった。

かわいいじゃないかー!
ダメだ。

釣られて、私の頬も緩んだ。
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