専務と心中!
「新鮮ですよね。ほんと美味しい。お店のご厚意に感謝ですね。営業停止処分モノのご厚意ですよ。」
「ほんとだね。なるほどな。これがレバ刺しか。そうか……。」

専務はしみじみと赤いレバーを見つめて、何度かうなずいた。

そして、そっと私の頬に触れた。

「ありがとう。一生食べる機会もないと思ってた。にほちゃんのおかげで、こんな美味いって知った。」
「……禁止されてますけどね。」

苦笑して、専務の手に自分の手を重ねた。
ただそれだけの触れ合いに、心が震えた。

お肉が運ばれて来るまで、私たちは飽きもせず、そのまま見つめ合っていた。

焼き肉をがっつり食べた後、専務は車で夜桜を見に連れていってくれた。

てっきり、京都市内、それも京都盆地内のどこかだと思ってたけど、車は東へ東へと走る。

信号で止まる度に、専務は私に手を伸ばした。
髪を撫でられ、うなじをくすぐられ、鎖骨を指で辿られ……くすぐったくて、私は何度も身をよじった。

ただそれだけなのに、身体が期待に潤んだ。

もう、そのへんのチープなラブホでいい。
なんなら、手っ取り早くカーセックスでもいい。

私はすっかり蕩けた。

京都を出る頃には、私のほうから専務の肩にしなだれかかっていた。


ん?
どこ行くつもり?
明日も仕事なのに、遠出過ぎない?

多少不安になったけれど、専務の横顔に気合いが満ち溢れていて……水を差すのをためらわれた。

ま、いいか。

私は、考えることを放棄した。
そうして、専務の熱に安心感を覚えながら、目を閉じる。

全てを委ねたい。
今夜は……。


「着いたよ。……寝ちゃったか?」

専務の声で、パチッと目を開いた。

確かに、一瞬寝てたかもしれない。

慌てて身体を起こしてキョロキョロした。
暗い……駐車場?

「ここは?」
「お寺の駐車場。少し歩こうか。」

歩く?
どこへ?

シートベルトをはずしてるうちに、専務が車を降りて、助手席のドアを開けてくれた。

「ちょっと、寒いかな。」
そう言いながら、私の手をとる専務。

確かに、車から降りると空気が少しひんやりしていた。

「うん。でも、気持ちいい。」

そう言ったら、専務は少し驚いたような顔で私を見た。

なに?

予想外の反応に私も戸惑って、専務を見た。

専務の頬が、みるみる緩む。

……えーと……なんか、私、変なこと言いました?

てか、そーゆー想像してはるんよね?これ。

やだもう。
助平!

気恥ずかしくて、私までにやけてきちゃう。
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