専務と心中!
まるで中高生のように、私たちは照れまくって歩き出した。
繋いだ手の温もりに溶けそう……。

「ほら。」

専務が指差す。

「満開!綺麗!」

眼下には桜のラインがぼんやりとライトアップされていた。

ここは……?

「あれが、琵琶湖。疎水の取水口の桜並木だ。」
「あ。三井寺のところ!」

そうか!
湖側から三井寺のある山側を見に来たことはあったけど、山から見下ろすのは初めて。

「すごーい!歩きたい!」
うれしくてそう言ったら、専務はにっこり微笑んでうなずいてくれた。

専務の腕に手を絡め、桜並木を歩く。
赤レンガのトンネルと桜って、幻想的で雰囲気あるわ。

時間も少し遅いからか、家族連れより、カップルが多い。
私達も、何度も足を止め、桜に見入り、たまには携帯で撮影なんかもしながら、疎水べりを往復した。


「寺の夜間拝観は明日からなんだよな。残念ながら。」

駐車場に戻りつつ専務が、上の空気味にそうつぶやく。
まるで、誰かに言い訳してるみたい。

「そうなんや。残念。」

私の相づちも不自然極まりない。

2人で顔を見合わせて、ほほえみあう。


「……琵琶湖を眺めながら、少し飲むか?」

専務の誘いに私はうなずいて、うつむいた。

……飲んだら帰れなくなる。

もちろん、わかってる。
でも、迷いはない。


最寄りのホテルにチェックイン。
琵琶湖畔にパステルカラーの船のように横たわっている老舗ホテルだ。

「ここに移転する前の古い建物だった時、商用でよく使ったんだが……新しくなってからは初めてだ。」

専務は物珍しげにキョロキョロしていた。

「私は何度か食事にきました。……お部屋は、初めてです。」

そう言ったら、専務はうれしそうにうなずいた。

「にほちゃんと、はじめてを共有できて、うれしいな。……これから、いっぱい作ろうな。」

……胸が……きゅんきゅんする。

これから、か。
遊びじゃない。
気まぐれでもない。

専務のそんな心がビシバシと伝わってくる。

結局、琵琶湖を眺めることも、お酒を飲むこともなく、私達はベッドになだれ込んだ。

優しい時間だった……。





「ずっとずっと、こうしたかった。……これからも、ずっとこうして愛していたいんだ。」

ゆるゆると揺れながら、専務はそう言った。
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