吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
だけど、さすがに部屋の前まで来て二の足を踏む。彼女が開けたドアの前で竦んだ足を進めないでいた。
「どうしたの?早く閉めないと寒いじゃない」
まるでこの前のことがなかったかのように事もなげに入室を勧められ、俺は躊躇する。
自分の軽率な行動が、また彼女を傷つけてしまうかもしれない。そしてそれをわかっていながら、己を抑えきれる自信が――ない。
「入ってもいいんですか?俺、また……真澄さんを襲いたくなるかもしれない」
しかし俺の決死の告白は、またもや斜め上にぶっ飛んでいった。
視線を逸らして咳払いした真澄さんは、可愛らしく頬をピンクに染めながら爆弾発言を放り投げたのだ。
「その事なら大丈夫よ。私、一応処女じゃないから」
「……えっ?」
「失礼ね。これでも30年も生きてきたら、付き合った男の一人や二人……。ってそんな事はどうでもいいのっ!」
いや、意味はわかります。あなたほどの素敵な女性が、いままで独り身でいた方が不思議なくらいです。ですが、なぜ今ここでそんな暴露を?
「吸血鬼って、純潔の乙女の血しか吸わないんでしょ?」
「えぇっと、それは――」
間抜けにも墓穴を掘っていたことが発覚する。その墓穴に埋まってしまいたい、自分。
「そんなこと気にしません!」って声を大にして叫びたい煩悩の暴走を、どうにかこうにか思い止まらせる。
挙動不審の俺に首を傾げて、彼女はさらに続けた。
「安心して。昨日の夕飯はニラとニンニクたっぷり特製手作り餃子だったし、お昼には濃厚豚骨ラーメンを食べたから。なんだったら、ニンニクをネックレスにして首からぶる下げててもいいわよ」
「……はぁ」
もう、そうとしか言い様がない。これ以上深い穴を掘ったら、絶対に地上に戻って来られないような気がする。
せっかく、真澄さんがまた家に入れてくれるようになったんだ。いまはとにかく、信頼回復に努めよう。
数日振りに食べる温かい彼女の手料理は五臓六腑に染み渡り、萎れていた俺の気力と体力を快復させてくれた。