吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
◇ ◇ ◇
以前のように、真澄さんの栄養たっぷり美味しいご飯を食べさせてもらえるようになったのは素直に嬉しい。
あんなに枯渇していた体力もずいぶんと戻ってきたようで、バイトにも自然と精が出る。
洗脳されたように耳に残るクリスマスの定番曲を口ずさみながら休憩室に入ると、いつもは就業時間が終わってもダラダラと残っている菊池さんが、手早く帰り支度をしていた。
「あれ?なにか予定があるんですか?」
珍しい・・・・・・という言葉は、自己消化して飲み込む。
「あぁ。これから、もう一本バイトが入ってるんだ」
携帯画面をチェックしながら答えた彼に驚いた。
「他にもバイトしてたんですかっ!?」
いつかフリーターからニートに肩書きを替えそうな雰囲気を漂わせている彼が、他にも仕事!?
失礼すぎる俺の心の声が聞こえたのか、携帯をしまいながらジロリと視線を寄越した。
「もうすぐクリスマスだろ?彼女のプレゼント代もバカにならないからな。短期のバイトを増やしたんだ」
「えぇっ!菊池さんって、恋人がいたんですかっ!?」
抑えきれなかった絶叫に今度こそ顔をしかめられ、俺は口を手で塞ぐ。初耳の連続に目を泳がせていると、逆に訊ねられた。
「筧は彼女になんにもあげないのか?クリスマス」
「彼女・・・・・・」
思い浮かべるのはただ一人。真澄さんのことだけど、当然そんな関係じゃなくて。
「できたんだろう?最近、やたらと血色良いし、いそいそと帰っていくし。・・・・・・違うのか?」
若干気遣わしげに尋ねられれば、俺たちの微妙な関係を再確認されたようで浮かれていた気分がズブズブと沈んでいく。
「まぁ、いたらいたで面倒だけどな。誕生石がついた指輪が欲しいなんて言われてさ。あいつ、四月生まれなんだよ」
菊池さんはポリポリと金茶の頭をかいて、慰めているのか惚気ているのかわからない呟きを零す。
クリスマスのプレゼントかぁ。
特別な意味じゃなければ受け取ってもらえるかな。「ご飯のお礼です」とか言って。
じゃあと出ていこうとする菊池さんのリュックをガシッと掴んで引き留めた。
「そのバイト、俺にも紹介してもらえませんか?」
勢いで反り返った菊池さんが、細い眼を最大限に見開いて振り向いた。