吸血鬼の栄養学、狼男の生態学
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菊池さんが紹介してくれたバイトというのは、引っ越し屋の手伝いだった。
なにも年の瀬も押し詰まって引っ越しすることはないと素人は思うんだけど、新居で新年を迎えたいという家族や、長期休暇が年末年始しか取れないという忙しい人はけっこういるようで、割増料金を払ってでもこの時期にという需要がけっこうあるらしい。
なによりも体力が勝負だけどそれなりに日当も良く、レンタル店のシフトの合間を縫って、仕事を入れてもらっていた。
23日の夜。俺はトラックに揺られていた。車窓を流れるのは、等間隔の照明が照らし出す一面真っ白なの雪景色。
長距離の引っ越しの手伝いで、こんな雪深い場所までやって来ている。
日がすっかり落ち氷点下になるまで続いた作業も、ようやく終わりを迎え、お客さんが差し入れてくれた熱い缶コーヒーで悴んだ手を温めていた。
トラックの狭い乗車スペースに大の大人が3人も並ぶと、たちまち窓ガラスが曇り視界を遮る。慌てて助手席の窓をタオルで拭いたら、道の駅のサインが確認できた。
「ちょっと、休憩していくか」
運転席から疲れた声がかかれば、誰も異を唱えない。車はウインカーを出して、右折していった。
ムンムンとした車内から一歩外に出ると小雪が舞っていて、作業着の首を縮める。駐車場の隅にまとめられた雪の山が珍しくて、ポケットに手を突っ込んだままつま先で穿っていると、ずっと我慢していた煙草を片手に、菊池さんがやってきた。
「お子様は元気だな」
息だか煙だかわからない、白いモヤモヤが苦笑いの口から漏れる。
「1才しか変わらないじゃないですか」
俺が雪の塊を放ると、菊池さんはヒョイッと首だけで除けた。
「おい、先輩になにするんだ。――っつっても、おまえが来年就職したら、社会人としては先輩になるのか?」
不愉快そうに煙草をくわえた口を歪めて、器用に溜息を吐く。
先輩、後輩は入れ替わることもあるけど、年齢は追い越せない。
「まぁ、七十、八十になっちまえば、年なんてたいした問題じゃないんだろうな。要は中身の問題だろ?」
菊池さんが、「その点、おまえはまだまだガキだな」ニヤリと口の端の片側を引き上げる。
綿埃のような雪が落ちる夜空を見上げると、顔の上で解けた雪の雫が頬を伝い落ちた。