陽のあたる場所へ

 ⑫ 長く暗い夜



初夏の嵐は、夜どおし窓ガラスを叩きつけ、泣き喚くように空気を震わせた。



多分 その夜はずっと、膝を抱えて床に座り込んでいた。
一睡もできず、酷い頭痛になるほどいろいろなことを考えていたが、それは何の解決にもならないことばかりで、ただ頭の中を堂々巡りしているだけだった。



いつの間にか風と雨の音が止んで、朝の光が窓から差し込んで来たのに気づき、俺は顔を上げる。

ゆっくり部屋の中を見回すと、途端に息苦しくなって、むせかえるように咳き込んだ。



絢音さんと二人で、好きな音楽を聞いたミニコンポ。

彼女が抱きついて来た時に落としたCD は、床に散乱したまま…

キスをして抱き合ったベッドのシーツの皺…

彼女のヒールの音が、冷たく遠ざかって行った窓。

兄が座っていた椅子。



全部、昨日のままだ。



まだ半日ほど前の出来事でしかない。
それなのに、俺の何もかもが全て一変してしまった。
< 169 / 237 >

この作品をシェア

pagetop