不機嫌な恋なら、先生と
「うん。知ってる」と冷静に返事をする。
「いや、そうなんですけど、あの箱崎なつめです。凛翔先生に家庭教師をしてもらってた、箱崎なつめです」
ようやく口にできた懐かしく愛しい凛翔先生という名前。
胸がすごくドキドキした。ドキドキして、自分のものじゃないみたいだった。
だけど、重い鎧や仮面でも外したみたいに、すがすがしさもある。ようやく言えないでいたことを、ひとつ打ち明けられたのだから。
先生は表情も変えず、少し間をあけてから、さっきと変わらないトーンで、「うん。知ってる」と言った。
「……ごめんなさい。凛翔先生のこと、忘れたふりして、ごめんなさい」
「……」
「好きだったんです。だから、もう二度と会いたくなかったんです。先生に」
「なんで?」
「だって、先生、あのとき、私の気持ち知ってたでしょ?好きだって気づいてたでしょ?」
先生は小さく頷いた様に見えた。
「あの時、私に好きって思われて、本当は、迷惑だったんですよね?
それなのに、私、あの日……家庭教師の最後の日に……ここに」と手のひらをおでこにあてた。