不機嫌な恋なら、先生と
「そういえば、兄貴の小説読んだよ。雑誌のほうのね。短かったから」
「あっ、どうだった?」と、少し前のめりになる。
「うん。なんか兄貴が書いてるのかと思うと、客観的に読みにくかったかな。ていうかさ、ああいうのって、取材とかするの? 新米編集者の話だったから、なつめさんを思い浮かべて読んじゃったけど」
「うん。一応、取材は受けたんだけど」
受けたけど、あのまどかは私を取材して書いた人なのだろうか。しっかりしていて、私とはちょっとかけ離れていた性格ではあった。
でも、私そのものを書いたわけではないし……誰なんだろう。あのまどかは誰なんだろう。物語の登場人物のひとりだ。そう思うのが普通なのに、そう思えないでいる。
言葉が続かないでいると「なつめちゃん?」と呼ばれ、ハッとする。
「あ、ごめんね。ちょっと思い出してた、取材の日のこと。面白いんだよ。KAMAさんって知ってる?
新宿二丁目でバーを経営してるメイクアップアーティストなんだけど、その人が先生の取材日に撮影で来ててね。先生のことすごい気にいってたんだ。イケメンって」
「深夜番組でみたことある。ガタイいいよね。あれに襲われたら勝てる気がしない」
誤魔化しながらも、胸の奥でウズウズしている。遥汰くんは、まどかさんのことを知っているのかな。訊きたくて仕方なくて、つい言葉が出てしまった。