不機嫌な恋なら、先生と
遥汰くんは、すっと笑みを引くと、すごく冷めた目をした。
「なつめさんって、ひとりっこ?」
「うん」
「じゃあ、きっと俺の気持ちなんかわかんないよね」
劇の冒頭で急に幕を降ろされたような、ひどく独りよがりな言い草だった。
少し頭にきて、「うん。兄弟がいない私には、わかんないって言いたいなら、わかんないよ。遥汰くんが兄弟いない人にしか話したくない話なら、聞きたくもないけど」と、言い返した。
「そういう意味じゃないよ」
「そういう意味に聞こえるよ」
遥汰くんは、一度、言葉を飲み込んで
「ごめん、確かにそうだ」と言い直し、続けた。
「兄弟って、たまに面倒くさいときもあるんだ。比べたくないことも比べられたりするし。って、どうでもいいね。何言ってんだろ、俺」
不用心にドアを開けてしまったことを後悔している人みたいだった。帰れとドアを閉めるみたいに、言葉をクローズするから、慌てて止めた。
「兄弟のいない私にはわかんないけど、先生は、遥汰くんのこと大切に思っているのは知ってるよ」
私の顔見て、プハッと噴き出した。
「何がおかしいの?」
人が真面目に言っているのに、その態度は癪に障った。
「ごめんね。兄貴が俺のこと大切とか思ってるわけないじゃん」
「……」