不機嫌な恋なら、先生と

「お邪魔します」

ご飯は家で鍋でもしようという話になっていて、先に先生が買い物をすませてくれていた。

私は、二人で飲むお酒と軽いおつまみを買ってきた。

先生は何か手伝うと言ったけど、具材を切るくらいだから、リビングで待っててもらった。夕方のニュースをみているだけなのに、先生がいると、ただの日常の景色の色どりをいつもと違うものにしてくれる。

鍋を温め、取り分ける。ビールを飲んでいると先生は、

「遙汰、家出ていくかもしれない」

「えっ?そうなんだ。急だね」

「うん。それは、いいんだけど」

足をひろげ大胆なポーズで毛並みを整えるミケランジェロに視線をやる。

「次に行くところ、猫、飼えないみたいでさ」

「え?じゃあ、置いてくの?」

「そうなるよな」

「じゃあ、私、お世話にくるね」

「うん。それか、一緒に住む?」

「え?」

「なんてね」

冗談か。この前、結婚なんてことを言ってくれたものだから、信じてしまった。先生と同棲なんて、まだ何も始まっていない私には早すぎることくらい、分かっている。

からかいの一種に違いないけど、想像すると心は弾んだ。
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