不機嫌な恋なら、先生と

「いや……なんかこのままじゃいけない気がしてきて。服とかいつもダメ出しされるし、もっと色々気を遣って生きなければいけないんですね」

「それ、入社したときから言ってるから」

「今日、ようやく意味が分かりました。身をもって」

「そう。何があったかわかんないけど訊かないことにしておくよ。
とりあえずさ、もっとアンテナはんないとね。休みの日に本屋と温泉と寺院巡りで御満悦してるだけじゃ視野広がんないよ。街も出歩いて、いろんなものを見るといいよ」

「そうですよね。疎かったブランドも英単語帳みたいにしたら、どうにか覚えましたけど、興味があるかないかというと未だに完璧な後者ですし」

「普通、そういう風に覚えないから。暗記するんじゃなくて、まずうちのファッション誌自体に興味もちなよ。それからだよ」

沙弥子さんは言った。

私が希望する部署に配属されなかったことを知っているからだと思う。

沙弥子さんは最近のトレンドに強い。それは洋服だけじゃなくメイクとかおいしいお店とか、そういう女子が好きそうなことに、常にアンテナを張って生きてるからだと思う。

だから、ケータリングのお店に詳しくなることも、展示会に行って流行を知り、きちんと取り入れるのも、川の流れみたいに自然なんだ。

そもそも好きなことへの探求心と興味のないことを詰め込むとは意識の向かい方が全然違うんだ。

でもいい加減、割り切らないといけないとは、わかっている。

わかっているけど、自分がここであまり役に立っていなくて、それは興味のない部署に配属されたせいだと言い訳につかっている、だから割り切れないってわかっている。
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