御曹司と溺甘ルームシェア
「私も実はな、ここだけの話、ワインより葡萄ジュースの方が好きじゃ」

会長が声を潜め、悪戯っぽく笑う。

……もっと人を寄せ付けない怖いイメージがあったんだけど。

「そう言えば、昔……ある女の子が言っとったなあ。『葡萄ジュースは美容にもいいし、記憶力が良くなるの。りんごジュースはアルツハイマーの予防になるのよ』って真剣な顔で説明してのう。思わず聞き入ってしまったわい」

会長が私に向かって目を細めニコッと頬を緩める。

……それ、私だ。

会長と話した記憶なんてないけど……。

この人にアルツハイマーの話までするなんて……なんて命知らずな自分。

何も知らなかったんだろうけど……その頃の自分が怖い。

「わしは、その子に感謝しとるよ。私がピンピンしとるのもその子の講義のおかげじゃ。まだボケとらんよ、寧々ちゃん」

会長が私の目を見てにっこり笑う。
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