二十年目の初恋
事件 1
 ゆっくり、のんびり、悠介と温泉で過ごした週末も終わり、またいつもの一週間が始まった。

 木曜日まで順調に仕事を済ませ、金曜日……。

 朝、副学長から意外なことを言われた。

「理事長から、きょう一日、あなたを貸して欲しいと言われたの。秘書と出席しないと格好が付かないシンポジウムらしいのよ。昨日から彼の秘書は夏風邪で休んでるらしくて。きょうだけ、お願い出来ないかしら?」

「私がですか?」

「ええ。学内で一番美人のあなたを御指名なのよ。気が進まない? ……わよね。色々と噂のある人だからね。実はね。これは、あなたには言わなかったことなんだけど……。一年前に理事長の前の秘書が辞めた時、あなたを譲って欲しいと頼まれてたのよ。でも私がお断りしたの。私にとって必要な子だから、お譲りは出来ないからと。そういう経緯があるから今回は断れなかったのよ。頼まれてくれないかしら?」

「でも私、理事長の仕事は何も分かりませんけど、それでもいいんですか?」

「隣りに居てくれるだけでいいそうよ。今回だけと約束もしておいたから、お願い出来ないかな?」

「副学長が、そうおっしゃるのなら……」

「引き受けてくれる?」

「でも本当に今回だけで、お願いします。私、ああいうタイプ苦手なんです」

「得意な人は居ないと思うけどね。ごめんね。ただ、くれぐれも気を付けてね。かなりのプレイボーイだって専らの噂だから……。シンポジウムが終わったら、直帰していいからね。誘われても、きちんと断って帰りなさいね」

「分かりました」

「理事長室で待ってると思うから、よろしくね」

「はい。では行ってきます」

 バッグや手帳、必要な物を持って理事長室へ向かう。

 セクハラ理事長と噂の……。

 気が進まない。どうして私なの? 

 副学長も何とか断ってくれれば良かったのに……。仕方ない。仕事だから、きょう一日だけ我慢しよう。


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