二十年目の初恋
事件 6
 抱きしめていた腕を解いて悠介は私を見詰めながら言った。

「心配で優華を一人にしておけない。ここで俺と一緒に暮らそう」

「大学も辞めて、ここで毎日、悠介の帰りを待つの?」

「嫌か? 贅沢はさせてあげられないかもしれないけど。優華と二人で生活していけるくらいの収入はあるつもりだけど」

「そういう生活も楽しいかもしれないよね。悠介の傍に、ずっと居られるんだもんね」

「仕事から帰ったら優華が毎日ここで待って居てくれる。考えただけで夢みたいで俺は最高に幸せだよ」

「マンション引き払って引っ越して来ようかな。いい?」

「いいに決まってるだろう。良かった。これで心配が半分減った気がするよ」

「大学は、もしかしたら……。月曜日に行ったら首になってるかもしれないし、辞令が出て系列の地方の大学に飛ばされてるかもしれない。理事長の一存で、それくらい出来るのよ。今の家の大学は」

「前は違ったのか?」

「前の理事長は今の理事長のお父様なんだけど、とっても人格者で厳格な方で、つまらない噂一つない方だった。大学が、おかしくなったのは五年前に今の理事長に替わってからなの」

「とんでもないバカ息子ってことか?」

「そうね。それは否定出来ない。理事長のプロポーズを断って地方に飛ばされた子が確かに居るから」

「優華が離婚したことを知って近付いて来た。そういうことか……」

「私、副学長に相談してみる。心配してアドバイスしてくださったし。もしかしたら力になってくれるかもしれない」

「そうだな。一年前には理事長の申し出を断ってくれたんだよな」

「うん。だから悠介、そんなに心配しないで。大丈夫だから」

「心配はするよ。当然だろ。俺の大切な優華なんだから」

「悠介が居てくれて本当に良かった。一人だったら、どうしていいのか分からなかった」

「優華には俺が付いてるんだから大丈夫だよ。早速、明日とあさってで優華の身の回りの必要な物を運ぼうか。そうだ。優華、ちょっとこっち来て……」


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