強引同期が甘く豹変しました
「おはようございまーす」
いつものように出勤すると、向こうの方でも同じような矢沢の声が聞こえてきた。
「永井さん、おはようございます!あ、コーヒー飲みます?」
「おはよー、小島ちゃん。じゃあ、お願いしていいかな?」
「はーい」
デスクに着き椅子に腰掛けると、入社2年目の後輩である小島ちゃんこと小島芹那が、すぐにコーヒーを入れてきてくれた。
「ありがと」
「いえいえ。あ、営業部にもコーヒー持っていってきますね」
「小島ちゃんは、本当気が利くよねー」
私がそう言うと、彼女は照れ臭そうに笑いながら擦りガラスの向こう側の営業部の方へ行ってしまった。
気が利く…か。
自分で言っておいて、なんか腑に落ちないのは何でだろう。
それよりもピッタリな別の言葉が浮かぶからだろうか。
気が利くよねーっていうよりは。一言で言うなら…あざとい、か。
そっちの方がしっくりくるんだよな。
何故なら小島ちゃんが朝コーヒーを入れてくれるのは、ついでと言って隣の営業部に持っていくための口実だということに私は気付いているからだ。
それも、矢沢に持っていくのが目的だということに。
最初のうちは気付かなかったけれど、矢沢と同じ営業部にいる同期のニッシーに聞いてからは、私も嫌でも気付いてしまった。
「小島ちゃんって、矢沢がいる時だけはコーヒー入れてくるんだよな」なんて。
ニッシーから初めてそんな話を聞いた時は、ただの思い過ごしじゃない?って否定していたけれど。
「矢沢が出張でいない時なんかは絶対持ってこねーから。これ、マジだから。しかも、コーヒーお願いしていい?っつったら、今ちょっと忙しいんで後でいいですか?とか言って結局全然持ってこねーから」
…と、ゲームの話以外で珍しく力説してきたニッシーの言葉に、私も自然と小島ちゃんの行動を意識するようになっていった。
すると、私は気付いてしまったのだ。
彼女は矢沢が出社してくると、ゴーサインが出たかのようにコーヒーを入れにいくことや。
ニッシーから聞いていた通り、矢沢が出張で出勤してこない日の朝はコーヒー飲みますか?の声をかけてこないこと。
つまり、矢沢がいる時といない時の差がわかりやす過ぎるくらいわかりやすくて。
思い過ごしじゃない?なんて、ニッシーの発言を否定していた自分の捉え方は、180度すっかり変わってしまった。