強引同期が甘く豹変しました
だけど、降車駅の改札を抜けて矢沢と横並びで歩き出した時だった。
ぼうっとしていた頭が、一瞬にして切り替わっていく。
私の視線の先に、別れたばかりの元カレ、須藤康介が現れたからだ。
その距離およそ、20メートル。
おまけに康介の隣には見知らぬ女がいた。
しかも、どういう関係なのかは知らないけど、私がここにいることなど気付いてもいない康介は、仲よさそうにその女と手を繋いでいる。
「おい、どした?あのカップル知り合い?」
隣にいた矢沢が、二人を見つめる私にそう聞く。
「ああ…知り合いっていうか。アレ、元カレっていうか」
「は?おまえが同棲してたってやつ?」
小さく頷くと、矢沢は何を思ったのか、いきなり私の手を掴んできた。
「なっ、何?」
「いいからこのまま歩け」
矢沢はそう言うと、掴んだ私の手をガッチリ握り、何故か康介たちの方に向かって歩き出した。
えっ、これ、完全に鉢合わせるパターンじゃん。
「ちょっ、矢沢…」
小声でそう言ってみたけれど、矢沢は聞く耳を持たずスタスタ歩いていく。そして、康介たちとすれ違いそうなギリギリの距離になった時。
「なぁ凛子」
矢沢がわざとらしく声をあげると、康介がそれに反応するようにこちらを見たような気がした。
ほんの一瞬の出来事だった。
別れた男女が偶然すれ違った、ほんの一瞬の出来事。
康介がどんな顔をしてたとか、何を思ったのかとか、そんなことはわからない。
だけど、きっとこうは思っただろう。
別れた女の隣にいた男は、自分よりも数倍、いい男だったと。矢沢を見れば、きっとそう感じたはずだ。
そして私も思っていた。
あんな男に自分の貴重な時間を割いてるなんて、あの女の子、もったいないことしてるな、なんて。そんな風に感じた。
負けた気なんてしなかった。
勝ったとしか思わなかった。
それはきっと、隣にいるのが矢沢だからだ。