強引同期が甘く豹変しました



「本当、おまえがちゃんと人の話聞かないから」

「えっ、私のせい?」

「そうだろ、朝ちゃんと何があったか話そうとしたのに聞く耳持たずに勝手に怒って」

「矢沢だって怒ってたじゃん…」

「昨日は昨日で帰ってこねーし。どれだけ心配したかわかってんの?」

「……ごめん」


鼻先をくすぐる永井の髪。
もう一度ギュッと抱きしめると、わざとらしく頭に顔を埋めた。

もう限界は、とっくに訪れていた。

あの夜、姉貴が旦那さんと喧嘩して家出してきたこととか。
明け方まで喧嘩の仲裁のために姉貴の家にいたこととか。
元々姉弟で、あのマンションに住んでたことも。たまに家出をしてくるからパジャマを置いていることも。

そんな説明はもう後回しでいい。

心も体も、俺の全てが永井を欲してた。


きっと、これが最後のチャンスだ。

今を逃したら、多分もう…気持ちを伝えるきっかけなんてなくなって。
この腕を離したら、今まで通りの、ただの同期の空気に戻って。

結局、何も言えないままになるかもしれない。


「おまえの言うとおり、作戦は、中止でいい」


心臓が、すっげードキドキする。


「仮の彼氏役なんて、こっちから願い下げだし」


腕を緩めた俺は、そう言いながら永井の頬を両手でそっと挟むように持ち上げた。


「一回しか言わないから。よーく聞いとけ」

「えっ?」

「仮の、じゃなくて」

「…うん」

「俺はおまえの、本当の彼氏に…なりたい」


カーッと顔が、熱くなっていく。
史上最強に、恥ずかし過ぎるセリフ。

自分で言っておいて、顔から火が出そうだった。

そもそも自分からこんな風に告白するなんてこと自体が初めてのことで。


情けないけど、言った直後は永井の目を見れなかった。


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