御曹司と愛され蜜月ライフ
「それは……よかったです……」

「うん。……ああそういえば、言い忘れてた。前にきみが言ってた『干物女』っていう言葉の意味、俺後でちゃんと調べてみたんだ」



思い出したようにそんなことを話す課長を、返事の代わりに少しだけ顔を動かして見つめる。

彼はとてもやわらかい眼差しで、私のことを見据えていた。



「要約すると、『様々な事を面倒くさがり適当に済ませてしまう、恋愛を放棄した女性のこと』だって?」

「まあ……そんな感じ、ですね……」

「卯月、恋愛を放棄してるんだ?」



課長、なんだかめずらしくよくしゃべるなぁ。そんなことを頭の片隅で考えるも特に深読みはせず、課長がしてきた質問にただ言葉を返す。



「そう、ですね。恋愛はもう、したくなくなったというか……」



まあ、そう思いながらも、私は懲りずに近衛課長のことをすきになってしまったわけですけど。

さすがにそこまでは口にすることはなかった。だいぶ慣れた視界の中、やはり彼は穏やかな表情で私の髪をすいている。



「へぇ。どうして、そう思ったんだ?」

「……私……コノエ化成に転職して来る前にいた会社で、2歳年上の……同じ部署の先輩と、付き合ってたんです」



たぶん、平常時なら、こんなにあっさり理由を話す気にはならなかっただろう。

だけど今私は暗い室内でリラックスしながらまどろみ、そして髪を撫でる近衛課長の手がとても気持ちいい。

そんな条件下では、静かに私の言葉を引き出す課長の声に抵抗する気がまったく起きなかったのだ。
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