御曹司と愛され蜜月ライフ
「えっ、え?」



視界を遮る暗闇で軽く混乱していると、ふっと彼が笑みをこぼす気配がした。



「いいから寝ろ。きみが寝付くまで、ちゃんとここにいるから」



その言葉とともに、そっと髪を撫でられた。

どうやら課長は、私が本気で怖がって眠れないのだと思っているらしい。いや、別にそれは間違いではないのだけど。今はそれ以上に、こんな暗い中で課長と一緒にいるという事実へのドキドキの方が私の胸を占めている。


……だけど、うれしい。近衛課長にやさしくしてもらえると、素直にうれしい。

布団の中で高鳴る胸に手を添えながら横を向き、暗闇に慣れてきた目で課長の顔を捉える。



「……課長は、眠くないですか?」

「大丈夫だ。今日はいつもより起きる時間遅かったし」

「でも……課長は、もっとたくさん休むべきです……」



たしかに胸はずっとドキドキとうるさいのに、それ以上の安心感が私を包んでいる。

近衛課長は、不思議な人。この人と一緒にいるだけで、いろんな感情を味わうことができるのだ。



「私、心配です……課長、ご実家に戻っても、ちゃんと規則正しい生活を心がけてくださいね。あと、ごはんちゃんと食べてください」

「ああ、わかった。約束する」



カーテンの隙間から月明かりが差し込む薄ぼんやりした世界でも、課長の笑いを堪えるような顔を見てとれた。

その表情に、ちょっとだけムッとする。私は、本気で心配しているのに。



「あのですね、課長は自分のことに無頓着すぎだと思いますよ。もっとこう……健康志向というか、おじいちゃんみたいな生活をすると良いと思います。あと、うまいことストレスを発散させる方法を見つけるとか」

「ふ、おじいちゃんはともかく。俺はきみといると、結構癒されてるぞ」



笑いまじりに答えて、さらりと私の前髪をすく。

だんだんとのしかかってくる眠気のせいで、脳がすぐに処理できなかった。課長の言葉の意味を深く考えることができないまま、ゆっくりまばたきをする。
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