御曹司と愛され蜜月ライフ
そして御曹司というそれだけでハイスペックな肩書きながら、近衛課長は見た目も極上という超人で。

メガネのレンズ越しに見える切れ長の瞳はどことなく冷徹そうな印象を受けるけど、「あの冷たい眼差しがたまらない!」なーんて意外と女性人気は高いらしく。

社内にも、どうにか彼をゲットしてシンデレラストーリー的寿退社を目論む女性社員が数え切れないほどいるとかいないとか。



「こないだ、経理部の斎藤さんが坊っちゃんを食事に誘ったらしいよ。でもあっさり断られたって」

「え、あの美人を……どんだけ理想高いんですかね近衛課長」

「手にしてた書類から目も離さず、『忙しいから』のひとことでバッサリだってさー。これはもしや、実は男が好きとかそういうパターンかな」

「……単に仕事が立て込んでたんじゃないんですか」



つくづく、女性社員はこの手の話が大好きだよなあとひそかに心の中でため息を吐く。

栗山さんの話に無難な返事はしている、けど。……しかしながら私は今現在、まったくその手の話題に興味はないのだ。自分自身恋愛する気がないんだから、他人の恋バナなんてもってのほか。


建築材料や化学工業製品の製造・販売等を主な事業としているここ、コノエ化成株式会社に転職してから約2年。

さすが大企業なだけあってお給料はなかなかだし、今いる部署は残業もあまりないし。

休日は“趣味”に没頭して、まさに充実した生活を送ってる。……シンデレラストーリーを夢見て、御曹司などという面倒くさそうなモノにかまけるなんて。そんな労力の無駄遣いをしなくても、十分現状に満足しているのだ。



「──いらっしゃいませ。アポイントメントはお取りになっていますか?」



受付にやって来たスーツ姿の若い男性の話を聞いて、適切な部署に電話をかける。

会釈する男性を笑顔で見送り、姿が見えなくなったところで栗山さんが小さくため息を吐いた。



「あーあ、今の人、顔はなかなか良かったけど左手に指輪してた。やっぱいい男は売れるのも早いよねぇ」



栗山さん……今の短いやり取りの中で、そんなところまでチェックしてたのか。

呆れというより、もはや尊敬の域だ。私より2つ年上の29歳独身栗山さんは、常にいい男レーダーを張り巡らせている。
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