御曹司と愛され蜜月ライフ
すごいよなあ。こんなにパワフルに、恋愛にエネルギー使えるの。

少なくとも私は、色恋事に情熱を傾けるなんて“もう”できそうにない。

以前飲み会の席でポロッとこんな本音をこぼしたら、今隣りにいるお姉さまに「まだ二十代半ばのくせに何言ってんの??!」とめちゃくちゃに髪の毛をかき回されてしまったけれど。


定時を迎え更衣室で私服に着替えた私たちは、下りのエレベーターが来るのを待つ。

退社後の予定もなく、いつも通り自宅に直行する私とは違って、栗山さんはこれから友達と女子会らしい。

綺麗に巻かれた長い髪を手ぐしで整えながら、彼女は横目でこちらを流し見た。



「卯月さー、なんか浮いた話のひとつもないの? 今は恋愛する気ないって前に聞いたけど、あんた見た目だって悪くないのにもったいないよ」

「ないです。というかいらないです」



ツンと前を向いたまま、キッパリと言いきる。

浮いた話なんてなくても、生きていくのに支障ありません。つーかほんと栗山さん好きだなこういう話題。


男なんていらない。恋なんて別にしなくていい。

でも私子どもは好きだしひとりっ子だし、我が家の血を途絶えさせないためにも子どもは欲しいなあって思うから、いつかお見合い結婚でもするのかもしれない。

ま、それは別に今すぐどうこうって話じゃないから、現時点で自分から何か行動起こす気もないけど。



「枯れてるわあー、卯月。若いうちにもっとアクティブに動きなさいよ。今度合コン行こ合コン」

「……そんな時間あったら……」

「ん、なに?」



思わずつぶやきかけた言葉をハッと飲み込んで、栗山さんに「なんでもありません」と返す。

ちょうどそのときエレベーターも到着したから、自然と会話も途切れた。

あー、危ない危ない。この人に私のプライベートのこと知られたら、無理やりにでも改善させられそうだもんね。

ひとつ小さくため息を吐いて。私は美人な先輩とともに、エレベーターへと乗り込むのだった。
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