御曹司と愛され蜜月ライフ
「……素顔のままでいると……俺はあまり、年相応に見られないんだ。だけど、メガネをかけると少しはマシになるらしいから」

「………」

「だから、仕事中はメガネを……おい、卯月、笑うな」



不機嫌そうに名前を呼ばれ、とうとう堪えていた笑いが声に出てしまった。

口元を手でおさえつつ、私は肩を震わせながらかろうじて答える。



「や、笑ってないです……ぶふ、わ、笑ってないですよ……っ」

「まんま笑ってるじゃないか。だから嫌だったんだ……」



遠い目をしてあらぬ方向を見つめる近衛課長。

たしかに私も、メガネをしてない課長の姿を初めて見たとき絶対二十代だと思ったもんなあ。

きっと、今までいろんな人に言われ続けて来たんだろう。童顔とまではいかないけど、若く見られるのはうらやましいことだと思うのに。

けれどたぶん、上に立つ人間としては少しでも威厳があるように見せたいのかもしれない。そしてそんな自分の事情を他人に知られることは、彼にとって本意ではなくて。



「拗ねないでください、課長。メガネかけててもかけてなくても素敵ですよ」

「そんな取ってつけたように言われてもうれしくないし、何より半笑いだからまったく信憑性がない」

「えー厳しいですねー」



……でも、課長は教えてくれた。私の言葉に、ちゃんと答えをくれた。

それがただ、このときの私はうれしかったんだ。
< 43 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop