御曹司と愛され蜜月ライフ
……びっくり、した。


心臓はまだバクバクと激しく暴れている。視線をおぼんに固定したまま、なんとか心を落ち着けようとした。

触れられたわけでもないのに、身体中が熱い。



「……卯月?」



私の両手がふさがっているからか、課長が今度はわざわざ玄関におりてドアを押し開けてくれている。

不思議そうに私を呼ぶその顔を、ぼうっと見上げた。


ああ私、どうかしてる。

課長のグリーンシトラスの香りが離れた瞬間、すごくホッとして。

でもそれと同じくらい──さみしい、なんて。



「……あの、課長」

「ん?」



課長はすぐに反応してくれる。

つぶやいてから、直後に後悔しかけた。

けれど、覚悟を決めて。私は小さく息を吸い込む。



「あの、……もしよかったら、ですけど」



恋なんていらない。

ハイスペック御曹司なんて関わらない方がいい。

このまま誰にも心乱されることなく、変化のない毎日をただ淡々と生きていたい。


だって、そうやって過ごしていれば──……誰かに裏切られて絶望することも、自分の心が傷つくことも、なくなるでしょう?
< 45 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop