御曹司と愛され蜜月ライフ
◇ ◇ ◇
あっという間に時間は流れ、その週の金曜日。……の、就業時間も終わった頃。
結果的に言えば、今日このときを迎えるまでの間近衛課長にピアスを見せることは叶わなかった。
あの日以来急に課長の仕事が忙しくなったらしく、残業を理由に今週1度も晩ごはんを持って行く機会がなかったためだ。
社内で姿を見かけることは何度かあったけれど、いつだって彼は忙しなくスマホを耳にあてていたり、来客と連れ立っていたり。
まさに外出しようとしている場面に遭遇したかと思えば、今度は逆に私が来客の対応に追われていたりと、なかなか雑談できるようなタイミングで会えない。
……いや、『会えない』ってなんだ。それじゃあまるで私、課長に『会いたい』って思ってるみたいじゃない。
週末になるまで結局毎日つけ続けて来てしまったピアスを指先で触りながら、思わずため息を吐く。
……ピアスの件は、ともかく……これだけ働き詰めで、近衛課長は大丈夫なんだろうか。
総務部長からチラッと聞いた。今は営業部全体が、週初めに突然依頼が舞い込んだ大手住宅会社向けプレゼンの準備で大わらわらしい。
元々その住宅会社がメインで利用していた建材メーカーが最近不祥事を起こしたとかで取引を続けるのが難しくなり、急遽代わりになるメーカーを探しているとのこと。こんなめったにない大チャンス必ずモノにしろと、上層部からもかなり期待という建前の重圧がかけられているとか。
社長……近衛課長のお父様からも、課長個人に何か話があったりしたのかな。いくら住所は隠しているとはいえ、電話で話すとか会社で顔を合わせることは可能だろう。
栗山さんと並んで自社ビルから外に出ると、びゅうっと冷たい風が頬を刺す。
ここ最近で急に気温が低くなった。私は冷気から逃れるよう、肩をすくめて首に巻いたストールにあごを埋める。
そういえば夜中、隣りの課長の部屋から何度か咳き込む声が聞こえて来ていた。
連日の激務にこの寒さ。向こうが断ってくるから私もおかずを差し入れていないし、きっと食事はテキトーになっているはず。
本格的に、体調を崩したりしてなければいいけど……。