御曹司と愛され蜜月ライフ
「ちょっと待って卯月ッ!!」



不本意な方向に傾きかけていた思考を吹き飛ばす勢いで名前を呼ばれ、ビクッと身体が震えた。

反射的に立ち止まって振り返る。すると私を呼び止めた張本人の栗山さんにいきなり正面から両肩を掴まれ、さらにおののいた。



「えっ、ど、どうしたんですか」

「卯月あんた、これから予定ある??!」

「えぇ?」



ガクガクと前後に揺さぶられながら、わけがわからず間抜けな声がもれた。

いや、あの、予定なら、別に、ないです、けど。

脳をシャッフルされる合間になんとかそれだけ答えると、これまた唐突に人力ジェットコースターから解放される。うっ、なんか若干酔った……。



「よしっ!! なら卯月、これから合コン行くよっ!! 合コン!!」

「うぷ……えっ、は、合コン!?」



予想もしなかった誘いに酔いも吹っ飛ぶ。目の前の栗山さんは太陽のように輝く笑顔でうなずいた。



「私今日これから合コンなんだけど、ついさっき幹事のコから『女子がひとり足りなくなった』って連絡来てさー。『誰か連れて来て』って言うから、あんたのこと連れてくことにするわ」



なるほど、エレベーターに乗ったあたりからなんだかものすごい剣幕でスマホとにらめっこしてると思ったらその件ですか。

……って、いやあの、『連れてくことにするわ』って。



「決定事項なんですか、それ……」

「は? 卯月あんた、私の誘い断るつもり?」

「トンデモナイデス……」



ぎりりとストールを締め上げられながら凄まれ、引きつった顔でプルプル首を横に振った。

何これこわい。ハンターの目をした先輩こわい。



「まあまあ、ただの人数合わせってことでおとなしくしといてくれればいいから。一応言っとくけどくれぐれも私の邪魔だけはしやがらないように」

「ハイ……」



そんなわけで不覚にも、『合コン』という名の女の戦場にたいした装備もなく足を踏み入れることになってしまったのでした。
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