御曹司と愛され蜜月ライフ
目の前まで来た彼は立ち止まると、私を見下ろしてにっこり笑顔を浮かべた。



「撫子ちゃん、二次会行かないでもう帰るんでしょ? 俺も帰ろうとしてたから、よかったら駅まで一緒に行かない?」

「あー……ハイ」



一瞬、いや私別のところに用事あるんで、なんて断り文句が頭に思い浮かんだけれど、ここは素直にうなずく。

まあ……どうせあとは帰るだけなんだから、もうちょっとくらいガマンすればいいよね。


にこにこと人当たりのいい笑顔で隣りを歩くこの人は、もしかしたらああいう場に慣れているのかもしれない。だって合コンのときも思ったけど、距離の詰め方がすごく自然で抜かりない。

自分とは全然違うタイプの人だな、と思うと、なんだか隣り合っている右肩がひどく重く感じられた。



「なかなかいないよねー、『撫子』って名前。なんかすごくお嬢様っぽいっていうか……あ、もしかして、実際に撫子ちゃんお嬢様だったり?」

「いやー、全然フツーの家庭で育ちましたよー」



にしてもよくしゃべるなあこの人……こっちは全然おもしろい返しできてないのに、ポンポン会話繋げててすごいわー。相変わらず名前は思い出せないままだけど。

受付嬢で培った必殺愛想笑いを貼り付けたままここ数日ですっかりクセのようになってしまったピアスを触る動作をして、ふと思う。


……そういえば。近衛課長、今日も帰り遅いのかな。

晩ごはんいらないっていうメールは、今日も早々と昼休みに来てたけど……いい加減、彼の食生活と睡眠時間が心配だ。

朝は私より1時間も早くアパートを出て、帰宅時のドアの音が聞こえるのはいつも日付が変わる前後。初日はもっとひどかったっけ。

こんなにハードだと、さすがの課長も体調を崩したりしないだろうか。いかにもタフそうとはいえ、最近は気温の変化も激しかったし……。
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