御曹司と愛され蜜月ライフ
「ホテル。普通にシンプルな部屋のところともっと刺激が強い部屋があるところ、どっちに行きたい?」

「──、」



ぞわ、と一気に身体中鳥肌が立った。

自分に向けられている微笑みがとたんに恐ろしいものに見えて、息を飲む。



「や……っえ、なんで」

「は? さっき『ホテル行かない?』って訊いたとき、うなずいたのはそっちだろ」



軽薄なそのセリフに、全身から血の気が引いた。

私がさっき、適当に返事をしたとき……この男、そんなこと言ってたの?



「なに、今さらビビったとかつまんないこと言うなよ? どうせ初めてでもないだろうし」

「っや、やだ」

「は? 聞こえねーよ」



心底嫌だと思うのに、身体に力が入らなくて振りほどけない。

足がすくんでほとんど自力では歩けていないはずだけど、男の力が強くてあまり問題がないみたいだ。



「……ッ、」



なんで。なんで私、こんな男にいいように引きずられてんの。

こわくて声も出せないから、助けも呼べない。肩を抱かれて歩く私と男は、まわりの目にはただのカップルにしか映らないのだろう。


やだ。いやだ。初めてじゃないからいいだろとか、そんな問題じゃない。

少なくとも私は、自分がすきになった人とじゃないとそういうことはできない。すきな人じゃないと、触れられたくない。


肩を包む手のひらの熱さが気持ち悪い。今すぐにでも大声を出して逃げ出したいのに、嘘みたいに身体が動かないからできない。

誰か。誰か助けて。

誰か──……。
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