御曹司と愛され蜜月ライフ
「いて……っ」



肩を掴む圧迫感が急になくなったと同時に頭上からうめき声が聞こえ、反射的に顔を上げた。

男が急停止したせいで身体がぐらりと傾き、けれどもそんな私をあたたかい何かが受け止めてくれる。


その“何か”がスーツ姿の胸元だと気付き、あわててその人物を振り仰いだ私は──驚きのあまり、目を見開いた。



「え……なんで、課長……」



そこにいたのは、我がコノエ化成の営業部課長、近衛 律その人だった。

うめき声の元は、課長が男の右手をきつくひねり上げていたためらしい。課長は今まで見たことのないこわい顔をして、目の前にいる男のことを睨みつけている。

ぎゅっと強く、ほとんど抱きしめるようにして身体を引き寄せられた。



「……卯月。一応訊くが、これは合意の上か?」



低い声でつぶやきながら、メガネの奥の鋭い視線は決して茶髪男から逸らさない。

ぼうっとしてしまっていた私は、課長の言葉で我に返り必死で首を横に振る。



「ち、ちがいます。無理やり、連れてかれそうになって……っ」

「──だ、そうだが。おまえ、このまま俺に気絶するまで殴られるのと1発殴られてから警察に引き渡されるの、どっちがいい?」



どちらにしろ近衛課長は殴る気満々らしい。茶髪男はチッと舌打ちすると課長の手を振りほどき、忌々しげに私たちを睨みつける。



「んだよ、最初ノリノリだったくせに急に態度変えてんじゃねぇよ、この尻軽女!」



ひどい捨てゼリフに私の方がぶん殴りたくなったけど、まだ身体が思うように動かせなかったからなんとか耐えることができた。命拾いしたなおまえ……!

男の後ろ姿が人混みに消えたところを確認して、ようやく深く嘆息する。
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