マタアソボウネ
第二章
私は、客間に呼ばれ叔母らしき人と聖司が来た。
「可愛い娘じゃのぅ。名前は……?」
「姫魅塚 麗神と言います。姫と書いて魅力の魅、それに塚。名前は綺麗の麗に神様の神と書きます。」
「姫魅塚家かのぅ。珍しい一族もここにいるもんのぅ。」
「一族?」
「ああ、すまんのぅ。麗神は何も知らぬのか……」
「は、はい。」
「麗神にも…いや、姫魅塚家にも永山一族と室山一族との関係があるんじゃ。」
「えぇ!?」
「わしは嘘はつかん。姫魅塚家は室山、永山のかなめじゃ。」
「誇子婆(ここばあ)まじっ!?」
「そういやぁ、聖司に話しておらんかったのぅ。丁度ええわい、話しておこうかの。」
「誇子婆?」
「そうじゃ。わしは室山 誇子。誇るという漢字に子供の子で誇子じゃ。聖司からは誇子婆と呼ばれとる。」
「そうなんですか。」
「それでの、かなめと言うのは……」
聖司と私は息を飲んだ
「呪子を誕生させる時に犠牲となった……。呪子を誕生させるにはそれなりの負と術者…室山と永山じゃな。そして1人の子供……。」
「子供なんですか……」
「大人じゃあその分術者も増やさねばならぬかったからの。だから子供が最適だったのじゃ。」
「子供なら誰でもいいじゃないですか。どうして私の先祖なんですか」
「麗神は何も知らぬのか……。姫魅塚は、永山と室山以上の力があり、子供でも永山や室山の大人一人分に与えした。だからじゃ。子供と言えども術者の仲間ゆえ術は組めたじゃろ……。永山、室山はおかげで大人を犠牲にしなくて済んだのじゃ。まあ、言い方が悪いがの……。」
「その力って私にもあるのですか?」
「昔より強い。だからこそ呪子が見えたのじゃ。わしは歳をとり過ぎてもう見えなくなりつつ。じゃから、聖司に叩き込ませとる。しかし、姫魅塚もいるとなるともっと教える必要が増えるの……」
「誇子婆話し続けてくれ……」
「そうじゃな。見えなくなりつつあるこの目で聖司を見ておる。力だけはあるからの……。今日は災難じゃったな。呪子はもう気づいたと思うぞ。麗神の存在を。姫魅塚の一族じゃと。聖司がとりあえずとして封じ込んじゃが、いずれ……すぐ近くにまた現れるじゃろう。」
「そんな。」
「まじかよ。もう、明子の姿をした呪子を見たくないんだ……。」
「仕方があるまい……そうやって誘おうとしているのじゃ。」
「……。」
「ただ1つ方法があるぞ」
「なんだよっ!?」
「わしらから出向くのじゃ」
「はぁ!?おい、それ……死ぬじゃん」
「死の間において、封印するのじゃ……麗神によって……」
「私……ですか?」
「そうじゃ。聖司じゃ足りぬ。もちろんわしもじゃ。元々から力がある姫魅塚家が封じる方がより消滅に近づく……。まあ、今の麗神なら無理じゃがな。」
「今の私なら無理……」
「自分に力がある事が頭で分かっておってもまだ体が理解しておらぬ。体が理解して気づけた事になる……。まあ、わしがやっとる事を教えてやるかの……。聖司、お主は畳部屋に行くのじゃ」
「はぁ!?なんで。」
「聖司に教えた事を麗神に教えるのじゃ。少しくらいええじゃろ?」
「わかったよ。行きゃあいいんだな。」
「そうじゃ。そうじゃ。ほれ。」
聖司はふすまの扉を開けて退室した。
「麗神よ……深呼吸して心を落ち着かせるのじゃ。」
「あ、はい。」
私は、誇子婆に言われる通りにした。
「次は手をこうやって……。そうじゃ。そして目をつぶり、念じるんじゃ。聖司の事を、いずれ聖司を通し、畳の部屋が見えるはずじゃ。」
「やってみます。(聖司……。念じる……。聖司……聖司……聖司……)」
「ゆっくりでええぞ。」
「(聖司……。………………っ!?)」
「見えたかの?目は瞑ったままじゃぞ。消えてしまうからの。」
「はい。えっと、真っ直ぐ見えるのが何かの掛け軸で、その近くにお抹茶を立てるものが机においてあります。」
「目を開けて良いぞ。初めじゃからの…ゆっくりでやらぬと身が持たぬからの。」
「はい。」
そして目を開き出していくと畳の部屋から遠ざかっていき、完全に目を開くと客間になっていた。
「疲れておらぬか?」
「少し……」
「初めはそんなもんじゃな。」
「私にこんな力があったなんて……」
「先祖に感謝せねばならぬの。この力のせいでえらい事に巻き込まれるハメになったがのぅ。」
「でも、ただの噂話から怯える日々を抜け出せるかも知れないんです。そして、もう永山家や室山家……そして姫魅塚家も悩まなくて済むのですから」
私は、笑顔を見せた。奏歌くらいにしか見せない程の笑顔を。
「そうじゃな」
「誇子婆。もういいか」
「今、呼びに行こうと思ってたんじゃ。」
「そう。で、これから麗神の特訓なのか?」
「そうじゃな。じゃが初めにしては良い出来じゃ。」
「ありがとうございます。」
「特訓とまではいかぬが、制御くらいはするかの……。あと、呪子が何をするか分からぬから、少しの対策くらいかの。」
「それはどれくらいかかるんだ?」
「そうじゃな。早くて2週間くらいかの?姫魅塚家の奴じゃ飲み込みが早いからの。」
「そうか。麗神、俺も手伝うから毎日来い。」
「えぇ!?」
「ダメか?」
「いや、別にいいけどさ……。」
「じゃあ、決まりだな。」
「お…おい。」
「不満か?」
「いや……そういう訳じゃ。」
「ならいいだろ」
「……。あ、誇子婆」
「なんじゃ?」
「呪子の名前って分かるんですか?きっと呪子にも心があるし、名前を呼んだら止まってくれたりとか話してくれたりとか……」
「無理だろ……」
「でもっ!」
「聖司……それは無い話ではないぞ。」
「マジかよっ!なんで教えてくれなかった」
「急がば回れじゃ。救済処置程度くらいに後で教えるつもりじゃっただけじゃ。呪子の名前は……姫魅塚 シト 麗神。」
「私っ!?」
「別に麗神の事ではない。彼女はそう呼ばれていた。美しい声が彼女の力になっていた。そして神をも喜ぶと……そこからとり麗神と。本来はシトじゃ。カタカナでの。」
「シト??それって使徒の事か?」
「そうなるの。神をも喜ぶその美声。神からさずけられ、その強大な力から神の使徒ではないかと。」
「そうか。」
「まあ、伝えられてきた話じゃから本当かは定かじゃないぞ。」
「ありがとうございます。」
「麗神。この時間だが大丈夫か?」
「……もうこんな時間か……。親は夜勤だから別に大丈夫。でも、迷惑でしょ?」
「迷惑じゃないぞ。今は誇子婆と俺だけだ。親は……呪子に殺された……。」
「っ!?」
「これこれ。そこまで言わなくても良いじゃろ」
「誇子婆だっていつ呪子の元に行くか、死ぬか分かんねーんだよ」
「そうじゃな。」
「聖司も大変なんだね。まあ、今日は御暇(おいとま)するよ。」
「そうか。家まで送ってやるよ……」
「いいよ……。」
「いつ呪子が術符を解くかは分からない。」
「聖司に送ってもらいなさい。私は大丈夫じゃから。」
「は、はあ。」
「んじゃあ、行くぞ。」
「今日はありがとうございました。お邪魔しました。」
「明日のぅ。忘れちゃあダメじゃからの。」
「は、はーい。」
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