溺愛伯爵さまが離してくれません!
奥様は、元々コーレル子爵というお方と結婚され、このお屋敷で2人暮らしていたとの事でした。
コーレル子爵はこの街の発展に力を尽くした方だそうで、とても評判の良いお方だったそうです。

ところが、7年前にコーレル子爵は病に倒れそのまま看病の甲斐なく・・・。
去年には、昔から世話をしてきた使用人も高齢を理由に故郷へ帰り。
そしてそのまま一人、このお屋敷で過ごされていたのでした。

奥様がこの街に一人で歩かれても、街の人々は貴族という身分をあまり気にせず接していました。
奥様もまた貴族であることを鼻にかける事もなく、街の人々と親しくしております。

貴族の方でも、こういった方もいらっしゃるのだな、と思いました。

「さ、リーナいただきましょうか」

奥様と私はいつも一緒に食事を摂ります。
伯爵さまの屋敷のような、豪華な食事ではありません。庶民が普段食べているような、質素な食事です。
奥様はそれでいい、と言います。

最初、一緒に食事を摂る事をためらいました。伯爵さまとの食事の件があったからです。
でも、奥様はマナーを気にすることはない、楽しくお食事が出来ればそれでいい、そう仰いました。
現に奥様は、スプーンとフォーク、一つづつで食事を摂られます。

「何本も使うなんて、洗うのも大変だし面倒臭いわよ。誰も見ていないんだし、別にいいじゃない」

そう笑いながら仰って、私と同じように頬張るのでした。

その言葉と行動に、私は大きく救われました。
心のどこかでつっかえていた重い鎖が外されたようで、心がとても軽くなったのです。

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