溺愛伯爵さまが離してくれません!

失踪

この日も屋敷に帰ったのは明け方近くだった。

僕を迎える使用人は誰一人いない。
かろうじて屋敷の前に立つ門番が軽く礼をするだけだ。

軽く声を掛け、屋敷の中へと入る。
辺りは薄暗く、廊下に置いてあるランプが仄かに明かりを灯すだけ。
物音をあまり立てないように、静かに自分の部屋へと戻る。

途中、リーナの部屋の前で足が止まった。
リーナは今、夢の中へと旅行中だろうか。

朝に見たリーナの眠る姿は、とても愛らしかったな。
いつもしっかりと結んでいる髪が布団に無造作に流れ、いい夢を見ているのか寝顔には少し笑みがあって。

思わず抱きしめたい衝動に駆られたけれど、なんとか持ちこたえた。
あのまま声も掛けずにいたら、どうなっていただろう。

理性も何もあったもんじゃない。自分としてはよく我慢したな、と思う。

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