強引でもいい、私を奪って。【SPシリーズ大西編】
悠は漁師見習いとしておじいさんの船に乗り、午後二時半くらいに帰ってくる。
夕食を食べたあとはしばらくのんびりして、夜は早く寝る。
少し前までは想像もつかなかった生活に、早くも体がついてこなくなっているのを感じる。
慣れてしまえば、平気になるのかもしれないけど……。
そんなとりとめのないことを考えながら歩いていると、私たちが暮らす借家の前に、誰かがいるのが見えた。
お尻まで隠れるチュニックを着た、中年の女性。短い髪にパーマをかけた彼女は、背伸びをして借家を覗き込んでいるように見えた。
「こんにちは」
何か御用かしら。
一応笑顔で話しかけると、女性はびくっと肩を震わせた。
「あ、こんにちは。私、この家の持ち主の娘です」
女性はこわばった作り笑顔で、こちらを見上げる。
なるほど、あのおじいさんの娘か。どうりで、なんとなく似ている。
「お世話になっております」
ぺこりと頭を下げた私に、女性はひそひそと話しかけてきた。