I love youを日本語に
食堂と離れていくほどに人は減っていく。
その後ろ姿がどんどん鮮明に見えてくる。
見間違うはずが、なかった。
だって生まれてから16年間、毎日のように見てきた背中なんだから。
あの頃よりも少し髪の毛が伸びて、
体格ががっしりした気がするけど。
でも、わたしはあの背中をよく知っている。
これでもかというくらいに、よく、知っている。
「トシ!」
そう声をかけようとした。
でも、それをぐっと飲みこんだ。
トシの向かいから長い髪の毛を揺らして駆け寄ってくる女の子を見つけてしまったから。
その子とトシは一言二言言葉を交わして、
そしてその子はトシの腕に自分の腕を絡ませた。
「…だれ」
雷に打たれたような衝撃、とはこういうときに使うのだろうか。
全身から力が抜けるような感覚。
慌てて近くの壁に身体を預ける。
でも握りしめていたスマホがあえなく手からすり抜けて落下した。
「あ…」
思ったより大きな音を立てて床に落ちたスマホ。
人の少ないこの廊下は音をよく反響した。
しまった、と思いながらスマホを拾って、この衝撃は気のせいだと思い込ませ、食堂に向かおうと思った。
なのに。
それなのに。
「…ユウ」
その声を聞いて、わたしは動きを止めた。