私のイジワルご主人様

「ワンちゃん、あの話どう思った?」



映画からの帰り道。
あたしを駅まで送りながら鴻上くんが聞いてきた。



「感動的な話だったよ」



「そっか。でもオレは…相手の男がヒロインの悩みにもっと早く気づいてあげられたら良かったのに…って思った」



鴻上くんはどこか遠くを見ながらつぶやいた。

その横顔がなんだか切なげで胸がキュッと締め付けられる。



「もし気づいてあげられたら傷つかずにすんだのにな…」



「鴻上くん…?」



今にもどこかへふらりと行ってしまいそうな気がして、思わずあたしは鴻上くんの袖を小さくつかんだ。



「…映画の話だよ。そんな心配そうな顔しないで」



鴻上くんはあたしの顔を見て、頬にやさしく触れた。


あれ…あたし、どうしたんだろう。


触れてもらえて嬉しいはずなのになぜかひどく心が痛い。

あたしを見つめる鴻上くんからは寂しさしか感じない。

その瞳には確かにあたしが写りこんでいるのに、鴻上くんはあたしを見ていなかった。


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