私のイジワルご主人様

切なく揺れる瞳は誰を思ってのことなのかはわからない。


ただ、その瞳からわかることは。

鴻上くんが傷ついている、ということだけ。


鴻上くんは映画の話だと言っていたけど。

映画の中の男性が一度大切な人を手放してしまったときのように、きっと鴻上くんも大切な人を失ったんだ。


きっと、ものすごく大事で手放したくなかった人を。


鴻上くんの傷ついた心が痛いくらい伝わってきて、あたしの視界が歪んでいく。



「…なんで泣くの」



ふ、と少し呆れたような笑みを浮かべながら鴻上くんはあたしの頭をなでた。

いつもと違ってその手は驚くほどやさしい。

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