◇君に奇跡を世界に雨を◇
灰色の予感
自分の病室に戻る途中、ふと思い付いてぐるりと病棟を見て回ることにした。
コツ、コツと松葉杖の音を響かせて、病室の前に掲げられた入院患者の名前をひとつひとつ確認していく。
それらしい名前を見つけるたびに期待しながら病室を覗いては、肩を落とした。
その日の夜も、静かな霧雨だった。
音もなく降り注ぐ真夜中の白い霧。
あんまり静かすぎて、自動販売機のモーターの音がやけにうるさく感じた。
そういえば、こんな霧雨の中、雨はまた雨宿りしてるのかな。
そっと窓を開けて紫陽花の辺りを見ても、夜の闇は暗すぎて灰色の雨は見つけられなかった。
「雨を探してるの?」
突然背後から声をかけられて、思わず悲鳴をあげそうになる。
「もう! 急に声かけないでよ! びっくりしたじゃない!!」
破裂しそうなくらいドキドキする心臓を押さえる私に、ユウはケラケラと笑いながら
「あかりちゃん、びっくりしすぎ。おばけでも出たみたいだよ」
と明るく言った。