◇君に奇跡を世界に雨を◇

空飛ぶ方舟

 




その日は、まるで空からビー玉が零れ落ちたみたいに土砂降りの雨だった。





バラバラバラ、と窓をたたく雨の音がいつまでも鳴り止まない。
まだ夕方だっていうのに厚い雨雲に覆われた空は、夜が来たみたいに薄暗かった。

みんななんとなく不安気な顔で、そわそわと窓の外を眺める。


不気味に薄暗い空を見上げていると、不意にユウが私を待っているような気がした。


そんなワケない。
ユウには夜しか会えないんだから。


そう思いながらも、ベッドから起き上がり私は松葉杖をついて4階に向かっていた。
手術室やICUが並ぶ4階は、今日もひと気がなく静まり返っていた。
ひんやりと冷たく薄暗い廊下に、降りしきる雨が窓ガラスに激しく打ち付ける音だけが響く。


まるで誰かが低い声で叫んでいるような轟音。



恐る恐る廊下を進むと、そこにユウがいた。
ユウは大きな窓の前で、薄暗い外をぼんやりと眺めていた。


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