恋は天使の寝息のあとに
ふと恭弥が何かに気がついたように、じとっとした目で私の方を睨み見た。

「ひょっとして、また里香が余計なこと言った?」
「ん? 何のこと?」
「言っとくけど、煙草やめたの、お前のせいとかじゃないからな!」

無駄にむきになっているところが逆に分かりやすい。その言葉が嘘だとバレバレだ。

「はいはい、分かってますよ」

私がそう言ってあげたのに、それでも彼はふいっとそっぽを向いて、不機嫌な顔をした。
軽くあしらわれたことが許せなかったのだろうか、なおも意地になって言い訳を続ける。

「……心菜のためにも健康でいないといけないだろ。
これから心菜が大人になるまでの二十年、成長を見守ってやんないといけないんだから」

二十年――気の遠くなるような先の話。
その長い年月を、恭弥はずっと私たちのそばで見守っていてくれるのだろうか。

二十年も経ってしまったら、恭弥も私も、おじさんおばさんで。
その頃の私はきっと今よりもふてぶてしくなっていて、恭弥の不機嫌でぶっきらぼうな態度にもいちいち振り回されなくなっているだろう。
きっと心菜には彼氏ができていて、早ければ『娘さんをください!』くらい言われているかもしれない。
そしたら恭弥はショックを受けて、『娘はやらん!』と怒り出す。

そんな遠い先の未来を思い描いて、そうだといいなと心の中で願った。


私は恭弥と心菜の座るソファの後ろへ回り込んで

二人丸ごと、後ろからぎゅっと抱きしめた。

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