恋は天使の寝息のあとに
「……!」

彼らしくない、突然の謝辞と笑顔に、胸がぎゅっと詰まる。
同時に、彼が意外と引きずるタイプだということを知り、弱い部分を覗けたことが嬉しくもあった。

「……別れたのって三年前だよね? 逆算すると結構長い間引きずってたんだね」

「お前っ……計算するなよ!」

顔を赤らめた恭弥に、「意外と女々しいんだね」なんて言って追い討ちをかける。
恭弥は「やっぱりあいつ、変なこと吹き込んで……」そう呟きながら額に手を当てて憂鬱そうにしていた。


恭弥が心菜の面倒を見てくれている隙に、私は外出する準備を始める。
手と足はせわしなく動かしながら、ふと、ソファの上でごろごろとじゃれている二人を横目で見た。

「そういえばさ、私、煙草が嫌いなんて言ったことあったっけ?」

煙草をやめた理由が私のためだと聞いたのを思い出して、真相を確かめてやろうと思った。

恭弥は訝しげな顔で首を捻り

「さぁ? 覚えてないけど。……でも嫌いだろ?」

そう言って心菜を膝の上に乗せながらこちらを見上げる。

「どうして分かるの?」

「俺が煙草吸ってると、嫌な顔するじゃん」

そんな顔していたつもりはないのだが完全にバレていて、無意識に表情に出てしまっていたのだろうかと恥ずかしくなった。
私のせいで、煙草が吸いづらかったんだろうな。
申し訳なく感じながらも、私のさりげない仕草から察してくれていたことが嬉しかった。
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